男は3ヶ月前、息子を轢(ひ)き逃げで亡くしていた。
妻に先立たれ、男手一つで育ててきた息子だけが生き甲斐だった男。
彼は犯人を殺したいほど憎んでいた。
犯人は捕まったが、これでは容易に復讐(ふくしゅう)も出来なくなってしまった。
或(あ)る日…男は古本屋で【悪魔召喚】と書かれた一冊の本を手に入れた。
こんなモノを信じてはいなかったが、何も出来ない自分が許せなかった、
男は“悪魔”を呼び出してみる事にした。
見事、悪魔は現われた。
悪魔「…お前の望みはなんだ?」
男 「息子を殺した奴に復讐がしたい!殺してやりたい!」
悪魔「…前払いで“お前の死”を報酬としていただくが良いか?」
息子を失った男は、自分の命など惜しくはなかった。
男 「ああ…それで構わない…」
悪魔「…ならば契約成立だ」
数日後、轢き逃げ犯が謎の死を遂げたと聞いた男は、
悪魔との契約の事を思い出した。
(前払いで“私の死”ではなかったのか?だが私は生きている…。
奴は悪魔に殺されたわけではないのか?あの悪魔は嘘を吐いたのか?)
そんな疑問を抱え数日が過ぎた頃、再び男の前に悪魔は現れた。
悪魔「…契約は果たした…さらばだ…」
男 「待ってくれ!あんたは“私の死”を報酬にしたはずだ!
…なのに、なぜ私は生きている!?」
悪魔「…たしかに報酬は“お前の死”だ、勿論(もちろん)きちんといただいた」
悪魔は笑いながら、最後の言葉を残して消えた。
生き別れの双子の兄がいる事は知っていた。当時、生活が苦しくて、
生まれたばかりの兄を里子に出したらしい。
推薦で大学が決まった10月に、その兄に街でばったり会ったんだ。
まったく同じ顔だから、間違えようがない。
兄も俺の存在を前から知っていたようで、
「今日は就活中で忙しいんだ、次の日曜日に会おう」と
喫茶店の名を告げて足早に去っていった。
日曜日。
兄が指定した喫茶店に入った。古く小さな店内は5人ほど座れるカウンターと
4人がけのテーブルが2つ。
兄は手前のテーブルに座っていた。奥のテーブルには40代後半の男女一組。
「俺なんか大学行くし、車買ってもらったし、先週はスキューバに行ったんだよ。
就活してるって言うけど就職先はまだ見つかってないんだろ?
兄ちゃん、家に戻っておいでよ」
「……」
「絶対そうすべきだよ」
「お前には妹が居るんだよ……」
兄は泣いていた。
プロフィール
HN:
imikowa88
性別:
男性
ブログ内検索
カレンダー
忍者カウンター