生き別れの双子の兄がいる事は知っていた。当時、生活が苦しくて、
生まれたばかりの兄を里子に出したらしい。
推薦で大学が決まった10月に、その兄に街でばったり会ったんだ。
まったく同じ顔だから、間違えようがない。
兄も俺の存在を前から知っていたようで、
「今日は就活中で忙しいんだ、次の日曜日に会おう」と
喫茶店の名を告げて足早に去っていった。
日曜日。
兄が指定した喫茶店に入った。古く小さな店内は5人ほど座れるカウンターと
4人がけのテーブルが2つ。
兄は手前のテーブルに座っていた。奥のテーブルには40代後半の男女一組。
「俺なんか大学行くし、車買ってもらったし、先週はスキューバに行ったんだよ。
就活してるって言うけど就職先はまだ見つかってないんだろ?
兄ちゃん、家に戻っておいでよ」
「……」
「絶対そうすべきだよ」
「お前には妹が居るんだよ……」
兄は泣いていた。
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imikowa88
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