深夜、2階の自室で眠っていた私は、
階下の妙な物音に気付いて、ふと目が覚めた。
「玄関から誰か入って来た……?」
そう思った瞬間、バクバクと鼓動が早まった。
夕方見たニュースが頭をよぎる。
(殺人犯、近辺に潜伏中か?捜査大詰め段階)
急に脇の下に冷たい汗が流れるのを感じた。
幸い、侵入者はまだ1階にいるらしい。
「早く逃げなきゃ!」
恐怖のために固まった体を必死で動かし、
物音を立てないよう静かに窓辺へと向かった。
忍び足で階段を登ってくる気配がする。
侵入者はもうすぐそこまで迫っているのだ。
私は窓から屋根に降り、ジリジリと遠ざかる。
屋根の縁に手を着き、庭へ足が届いた時、
真上にある私の部屋の電気がパッと付いた。
「ヤバイ!」
私はもう無我夢中で庭を抜け、夜の街を走った。
あの時、逃げるのが少し遅れていたらと思うと、
いまだに背筋が寒くなる思いだ。
少なくとも今のこの生活はなかっただろう。
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妻を殺した。
よみがえるのが怖くて、執拗(しつよう)に首を絞(し)めて確実に殺した。
郊外の竹やぶに遺体を運び、深く掘って、入念に埋めた。
家に戻ってからも、震えは止まらなかった。
今にも泥だらけの妻が玄関をノックしてきそうだった。
翌日の夜、恐怖に耐えられず確かめに行った。
再び車を遠く遠く走らせ、竹やぶにたどり着いた。
昨日と変わらぬ光景を見て、少しでも安心する気だった。
…なんということだ。
生い茂る竹やぶの中で、妻が折れた首をかしげながら、
こちらを見つめてまっすぐに立っているではないか。
俺は悲鳴を上げて逃げ出した。ただただ恐怖に震え、
闇雲(やみくも)に車を走らせながら、妻に許しを請うていた。
しかし、妻は追いかけてはこなかった。
驚いたことに、事件として報じられることもなかった。
あれはいったい何だったんだろう…。やはり幻覚か…?
それから、長い月日が経って、やっと気がついた。
今ごろ妻は、はるか頭上で骨となって揺れているのだろう。
女房とは、人里離れた片田舎の屋敷で出会った。
結構大きなその屋敷に身よりもなく一人で住んでいたという。
透き通るような白い肌。高貴ささえ感じられる凛(りん)とした姿に
一目惚れだった。フラフラ気ままな旅暮らしだった私は、
転がり込むようにその屋敷に居つき、気がつけば子供までできていた。
女房と私のいいところを足して割ったようなとってもかわいい娘だ。
八重歯なんか、そっくりそのまま二人から受け継いだんだろう。
従順でよく気がつく気だてのいい女房で、いつも身綺麗にしているのだが、
私の前では化粧をしている姿を見せない。
昼間もずっと家にいるようだ。ただ、時々夜に家を抜け出しているみたいだ。
特に満月の夜は明け方前まで帰ってこない。
まぁ、それは私にとって好都合でもあるのだが。
それ以外はなんの問題もないいい女房だ。文句はない。
ただ、娘のことを思うと少し不憫(ふびん)な気もする。
こんなに綺麗に生まれてきたのに、
太陽の下を駆け回ることも
満月の下で恋を語ることもできないなんて。
プロフィール
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imikowa88
性別:
男性
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