私が小学生の時の話 。
ちょっとした奇妙な遊びが流行っていた。
その名も「儀式ごっこ」
暗闇の中で机に火のついた蝋燭(ろうそく)と鈴を置く。
4人でその机を囲んで手をつないで輪になり、目を閉じて死んだ人の名前を
心の中で何度も呼び続ける。すると、霊がそれに答えて鈴をならすという。
ちょっとした降霊術だった。
私と友達の3人は、一ヶ月前に事故で死んだクラスメイトのTの名前を使って
「儀式ごっこ」をすることにした。
夜の学校に集まり、Tが使用していた机に、火を灯した蝋燭と鈴を置き、
4人は手を取り合った。準備は整った。
「じゃー電気消すよ」
真っ暗になった教室を蝋燭の火がわずかに照らす。
私は目を閉じてTの名を呼び続けた。
鈴の音はしなかったがだんだん怖くなってきた。
気のせいか、友達が先ほどより強く私の手を握ってきた。
みんな怖いのだろう…。
二重の暗闇が怖くて、目を開けたくて仕方なかった。
けれど、もし目の前にTの幽霊がいたら…。
結局儀式はわずか3分で終了した。
何かあってからでは遅いし…。
私たちとTはそんなに親しくなかったから、話すことも何もなかったし…。
後日、その日の事が担任の先生にばれて、こっぴどくしかられた。
「儀式ごっこ」は禁止となった。
長い夢を見ていた。
目が覚めると、そこには白い天井。白い壁。カーテン。規則的に鳴り響く機械音。
眩しい。視界が白く霞(かす)む。
「・・・!!目を覚ましたのね!」
『・・こ・・ごどごで・・ずか・・』
妙な感じに声が掠(かす)れる。自分の声じゃないみたいだ。
「・・落ち着いて聞いてね。ここは病院よ。あなたは交通事故に遭(あ)って
意識不明だったの」
『おれ・・はどうな・・ています・・か』
「・・・。すぐ、先生を呼ぶから。待ってて」
『は・・い・・』
ここの看護師だろうか。声の調子からすると俺より年配だろう。
四十代半ばといったところか。どことなく見覚えがある。
きっと、眠っている間俺の世話をしてくれていたのだろう。
妻は?娘はどうなった?記憶が欠如している。
俺が覚えているのは、娘が小学校の卒業式で見せた笑顔。
妻が涙ぐんで微笑んでいた顔。
それから・・・
・・・。頭が回らない。考えるのは後だ。少し休もう。
俺は体が欲するままに、再び意識を手放した。
一時間ほど眠っただろうか。目を覚ますと、傍(かたわ)らに先ほどの年配女性。
その隣に見覚えのある少女が座っていた。
相変わらず視界が白くぼやけてよく見えないものの、俺にはすぐに分かった。
『ご・・め゛・・んな゛』
精一杯搾(しぼ)り出しても、しわがれた声しか出なかったが、
彼女はそれでも、俺の手をぎゅっと握りしめてくれた。
多感な時期に父親が意識不明だったのだ。辛い思いをさせたのだろう。
寂しげな表情をしている。背が伸びて、顔立ちも何だか変わったようだ。
俺は、また現実に戻ってこれたことを神様に感謝した。
そのとき、奥の入口から俺と同じようにしわがれた声が響いた。
「お帰りなさい、あなた!」
・・・ああ、神様・・・
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