10歳の時、母が死んだ。それからは親父と二人の生活。
親父はいつも自分の考えが正しいと思いこんでて、俺の話を聞こうともしない。
この先もこんな生活がずーっと続くのだろうか。
俺はどうすればいいんだ。
毎日毎日、ドア越しの親子喧嘩を繰り返す。
「いい加減ドアを開けろよ。いつまで部屋に閉じこもってるんだ」
「うるさい!向こうへ行け!!」
「毎日毎日部屋に閉じこもって何になるっていうんだ!」
「そんなの俺の勝手だろ!」
「こんな生活はいつまでも続けられないぞ。部屋から出てみようよ」
「絶対に嫌だ」
「同じ年の人達は今も働いてるんだぞ。もういい年なんだから、いい加減
働いたらどうなんだ」
「そうやってすぐに俺を働かそうとする。俺は働きたくないんだ。
やりたい事があるんだ」
「うるさい。つべこべ言わずに働け。いい加減にしろ!」
「だまれ!俺に命令するな!向こうへ行け!!」
今日も不毛な親子喧嘩。いったい俺はどうすればいいんだ。
早く働けるようになりたい。
子どもも出来て、アパートも手狭になったので、中古の一軒家を買った。
それが築3年で庭付き駅近、信じられないような格安物件だったんだ。
友人には「事故物件じゃね?」なんて言われたけど、ご近所さんも気さくで優しいし、
今時珍しいおすそ分けなんかもいただけるので俺は気に入っている。
妻は「時々、おこげ入りの失敗作もあるのよ」なんて笑っているが…
しかし、越してから1ヶ月程過ぎた頃から妻の体調が悪くなり、
「視線を感じる」と怯えるようになった。
やはり、いわく付きなのだろうか?
家が立つ前は何だったのか、隣りのおばさんに聞いてみると、
「ああ、うちの畑だったのよ~。うちの主人がいなくなってからは手入れも出来ないし、
手放しちゃったんだけどね~」おばさんは少し寂しそうにそう言った。
そういえば、おばさんの家族が出入りしているところは見ないな。
寂しいから、色々とうちに世話を焼いてくれるのだろう。
日曜日、相変わらず具合の悪い妻にかわり、子どもと遊んでやろうと庭に出た。
以前の住人も子持ちだったのか、小さな砂場がある。そこで砂遊びをさせていると、
砂の中から真新しいクマのぬいぐるみが出てきた。
子どもが埋めたのか?手に取ろうとして違和感を覚え、慌てて手を離した。
胴体の部分が赤い糸で縫い直されており、びっちりと針が埋め込まれていた。
先に子どもが触っていたら…
ゾッとして警察を呼んだ。
庭で必死に説明したが、あまり真剣に取り合ってもらえなかった。
「この2、3年、よくそういうイタズラは聞くんですけどね」
そんなやり取りをしていると、隣りのおばさんがひょっこり顔を出した。
「どうしたの?」
「気味悪い人形が庭に埋めてあったんです。悪意があるとしか思えません」
「怖いわね~。それでお子さんは?」
「え?」
「怪我とかはなかったの?」
俺は明日にでも引っ越すことを決めた…
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