俺にはもうすぐ結婚して一年になる妻がいる。
出会って一ヶ月半というスピード結婚だったので、
「子供欲しいけど、今の内に二人っきりで色んな思い出作っておこうね」
と口癖のように妻は繰り返していた。
俺は正直、家族を養う大変さを甘くみていた。
稼ぎも少なく、やりくりもろくに出来ない俺に、気を使っているのだろう。
情けない話、蓄えも少ないいま、子供を育てるのは重荷にもなりかねない。
そんな事ばかり考えていると、やはり気分も沈むもので、俺は少しずつ
酒に逃げるようになっていた。自然と顔を合わせる時間も減っていき、
そのうち俺は、隠れて電話やメールをしている妻に気付いた。
気づいたが、問い詰める事も出来ず、気づかないふりをするしかなかった。
浮気をされても仕方ないと思った。
それにともない、普段より楽しそうに話し、笑う妻を見ていると、
ますます自分が惨(みじ)めで、また俺は酒に逃げた。
以前よりも喧嘩をするようになった。
帰宅直後に喧嘩になった際、会社でのミスも含めてイラついていた俺は、
妻が隠れて浮気している事を責めた。
誤解だと泣く妻を置いて、俺は家を飛び出した。
近くの居酒屋で浴びるように酒を飲み、店を出て、俺はふらふらと家のドアを開けた。
・・息苦しさで目が覚めた時、悲しそうな笑顔の妻と、俺の首元に伸びる
妻の細い手が見えた。
俺は慌(あわ)ててその手を払い、無我夢中で妻の首を絞(し)めた。
妻は驚いた顔をしていたが、すぐに動かなくなった。
・・しばらく呆然とした後。
警察に電話する為、ネクタイを外しながらリビングへ向かうと、
テーブルを埋め尽くす普段より豪華な妻の手料理と、旅行会社のパンフレットが
見えた。
俺は玄関に戻り、妻を抱き締めた。
妻の顔は滲(にじ)んでよく見えなかったが、一年前の今日のように笑っていた
ように見えた。
(解説)
初出時、誰も気づかなかった(というかスルーされた?)が、最初の妻が思い出作ろうね
と言っている発言や、夫に秘密のメールや電話が旅行の暗示であり、豪華な食事が
一年目の結婚記念日の暗示である。
妻が、「俺」の首元に手をやっていたのは、首を絞めるためではなく、俺が苦しそうに
していたので、ネクタイを外そうとしていたという布石もある。
よって、「俺」は、結婚記念日に妻を殺したということになり、そのことにゾクゾクする
という話である。夫婦のすれ違いという、実際にありそうな事件だから怖いという
感覚はないだろうか。
↓2ちゃんねる投稿時のヘッダー(初出「じわじわ来る怖い話part9」)
539 :sage:2007/10/20(土) 06:49:48 ID:fymp/P5oO(携帯)
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