「神様がいるなんて、あなたも信じていないわよね?」
彼女の問いかけに、僕は肯(うなず)いた。
世の中に宗教はたくさんあって、その数だけ神様がいることになっている。
けれど、神様や天国または地獄なんて概念は、生きている人間を慰(なぐさ)めたり
戒(いまし)めたりするために誰かが作ったものに過ぎない。
「だったらお坊さんが唱えるお経だって、意味なんか無いわよね?」
僕は再び肯(うなず)いた。
神様がいないなら、人間の創作物である経文に超神秘的な力が宿るはずも無い。
あれは故人の霊をあの世へと送り届けるためではなく、あくまで遺族の悲しみを
鎮(しず)めるために読まれる物だ。
「じゃあ、この世を彷徨(さまよ)う魂は、どうしたら成仏できるのかしら?」
なるほど、宗教家が行う浄霊(じょうれい)儀式なんかに意味が無いとすれば、
現世に留まる霊はどうしたら成仏させられるのだろう。
僕は彼女に言った。
「生前に熱心な信仰があれば、経文を読んでもらうことで、
或(ある)いは成仏できるのかもしれないね」
信心深かった故人なら、お坊さんの読むお経にありがたみを感じて、
安らかに眠る事が出来るのかもしれない、と僕は思った。
「そう……そうかもね……」
それきり彼女は俯(うつむ)いて、黙り込んでしまった。
僕はひしゃげたままのガードレールに花束を手向(たむ)けて、その場をあとにした。
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