長い夢を見ていた。
目が覚めると、そこには白い天井。白い壁。カーテン。規則的に鳴り響く機械音。
眩しい。視界が白く霞(かす)む。
「・・・!!目を覚ましたのね!」
『・・こ・・ごどごで・・ずか・・』
妙な感じに声が掠(かす)れる。自分の声じゃないみたいだ。
「・・落ち着いて聞いてね。ここは病院よ。あなたは交通事故に遭(あ)って
意識不明だったの」
『おれ・・はどうな・・ています・・か』
「・・・。すぐ、先生を呼ぶから。待ってて」
『は・・い・・』
ここの看護師だろうか。声の調子からすると俺より年配だろう。
四十代半ばといったところか。どことなく見覚えがある。
きっと、眠っている間俺の世話をしてくれていたのだろう。
妻は?娘はどうなった?記憶が欠如している。
俺が覚えているのは、娘が小学校の卒業式で見せた笑顔。
妻が涙ぐんで微笑んでいた顔。
それから・・・
・・・。頭が回らない。考えるのは後だ。少し休もう。
俺は体が欲するままに、再び意識を手放した。
一時間ほど眠っただろうか。目を覚ますと、傍(かたわ)らに先ほどの年配女性。
その隣に見覚えのある少女が座っていた。
相変わらず視界が白くぼやけてよく見えないものの、俺にはすぐに分かった。
『ご・・め゛・・んな゛』
精一杯搾(しぼ)り出しても、しわがれた声しか出なかったが、
彼女はそれでも、俺の手をぎゅっと握りしめてくれた。
多感な時期に父親が意識不明だったのだ。辛い思いをさせたのだろう。
寂しげな表情をしている。背が伸びて、顔立ちも何だか変わったようだ。
俺は、また現実に戻ってこれたことを神様に感謝した。
そのとき、奥の入口から俺と同じようにしわがれた声が響いた。
「お帰りなさい、あなた!」
・・・ああ、神様・・・
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俺はどうしようもなく彼女にひかれていた…繰り返し…思いだす、彼女との思い出。
初めて告白した時のはにかんだ笑顔。
夜景を見に行って指輪を渡した時は、涙を流して喜んでたっけ。
7年間の思い出が頭を駆け巡る。
だけど俺は彼女を裏切ってしまった。
野心に負けて、社長の娘を選んだんだ。
彼女は思い出の場所に俺を呼び出した。
本当は彼女を一番愛してる、と伝えたかったけど、
もはや何も言えなかった。
彼女は、 泣いてるような笑ってるような顔で、
「あなたと幸せになりたかった。でも、もう手遅れだしね!」
そういい残すと車を走らせた。
彼女の去った後は怖いくらいの静寂が訪れた。
俺は結局、どちらとも結婚しなかった。
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imikowa88
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男性
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