その夜、私は生まれて初めて幽体離脱というものを体験した。
天井付近から自分の部屋を見下ろしている。
寝ている私自身の顔は暗くて見えない。
しかしこの状況はまずくはないだろうか。
体に戻れないと死んでしまうこともあるというし…。
私は寝ている自分の肉体に戻ろうとした。
が、なぜだろう、体が全く動かない。
ギシギシという音が聞こえる。
まずい、このままじゃ本当に戻れない!
気ばかりが焦り、時間だけが流れていく。
気がつくと、私は寝床の中で朝を迎えていた。
あれは夢だったのだろうか?
あの体験から、3年の月日が流れた。
私は全てを失っていた
友人も恋人も財産も社会的地位も…。
思えば3年前のあの時期が、人生の中で最も充実していた気がする。
だから、終わりもここなのだ
ポケットから鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。
よかった、どうやら鍵は変えられていないらしい。
足音を殺し、寝室に忍び込む。
天井を見上げると丁度よい感じの梁がある。
踏み台を持ってくると、そこに上り、梁に縄をかける。
あくまで今の住人を目覚めさせないように静かにだ
…私は思い出していた。
3年前のあれは、幽体離脱でもただの夢でもなかった。
あれは、予 ガタン
ギシギシ
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仕事でヤバい失敗をしちまった。
会社は首になって社員寮は追い出されて最悪だった。
結構いい歳だし、実家の両親に泣きつくのも躊躇(ためら)った。
実家には長男夫婦が同居してるし、俺の居場所なんかない。
独身だし思い残すことも特にない。
この先の人生の不安を考えたら死んでしまった方が楽だと思い、
自殺することにした。
色々な自殺系サイトで方法を調べてみたが、成功者の体験談とか
読んでいたら怖くなってきた。
そんなときに実家から電話がかかってきてさ、
母ちゃんの声を聞いたら、俺が死んだら泣くんだろうなー、とか思っちゃって。
やっぱりやめにしたよ。
電話しながら泣いちゃってさ、母ちゃん超心配してくれた。
仕事見付かるまでの間、実家の世話になることにしたよ。
長男夫婦も歓迎してくれた。
もうすぐ甥っ子か姪っ子が産まれる予定だから、その時は遊び相手になってくれって。
そんなめでたいことの前に、俺が死んだら迷惑だったな。
思いとどまってよかった。
意気地無しってよくいわれるけど、そのおかげでいま俺は生きてるんだ。
これからは親孝行できるように頑張るよ。
顔を洗った後、目の前の鏡を見た
そこには俺が映っているんだが
なにか違和感がある
俺なんだけど俺じゃない気がした
顔を近づけてじっと見つめる
そのうちボロを出すんじゃないかと思って
まばたきせずに見つめた
間近で自分と同じ顔を見ると、すごく生々しい・・・
しばらくすると目を開けているのが辛くなってきた
相手もピクピクしているようだ
お互い、息を止めてるように微動だにしない
早く負けを認めろ!
その時、不覚にも俺は先に目を瞑(つぶ)ってしまった!
しまった!
すぐ開けて見ると、相手も同時に目を開けたようだ
あと少しだったのに・・・
これで分かった、やっぱり鏡の中の俺は俺じゃない
目を閉じる瞬間と開けた瞬間に動きがあった
目の前の俺も緊張した顔だ
少しずつだが疲労しているようだ
今度こそ尻尾をつかんでやる!
するとリビングからママの声が聞こえてきた
「マロンちゃーん、ご飯の時間よー」
鏡の中の俺は反射的に尻尾を振った
↓2ちゃんねる投稿時のヘッダー(初出「じわじわ来る怖い話part8」)
29 :sage:2007/09/09(日) 00:56:09 ID:e8qJ4Srz0(pc)
プロフィール
HN:
imikowa88
性別:
男性
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