一人旅で乗った小さな客船で、
船縁(ふなべり)から夜の海を眺めて、ロマンに浸っていた。
不意に後ろから船長さんに声を掛けられた。
若くて割とルックスもいい。
軽く色めきたちつつ、適当に話をしてて、
「船のお仕事って大変でしょう」
と話しかけると、
「そうでも無いですよ。女性だとそう感じるかも知れませんね」
色々聞かせてもらって、
このまま寝室に呼ばれないかな、とか
淡い期待も抱いたけど、残念ながらそんな事も無く(笑)、
夜も更けてきた頃に、船長さんはそろそろ部屋に戻ると言い出した。
でも、最後にこんな意味深な事を呟(つぶや)いた。
「女性が一人で夜の船縁に居るのは危険なんですよ。海に呼ばれるから」
その時は良くわからなくて、そうですかーって適当に相槌打って
先に寝室に戻った。
先に寝室に戻った。
でも翌朝、大騒ぎしている船員達に、何事かと聞いてみて
仰天(ぎょうてん)した。
仰天(ぎょうてん)した。
船長が船縁から身を投げたらしい。
ちょうど自分と別れたあのあと。遺書は無かったと。
その時、船長の最後の言葉が浮かんできたよ。
彼女はきっと海に呼ばれたんだって、今でも俺はそう思ってる。
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友達と二人で話してたら、
久しぶりに心霊写真を撮ってみたいと誰かが言い出した。
近くの山道に、惨殺(ざんさつ)事件があってからもすぐに取り壊されなくて、
未だに残されてる民家があるので、夜中に行ってみた。
玄関から居間、風呂場とトイレ、キッチンに父親の部屋、階段から二階へ行き、
子供部屋からベランダ、母親の部屋、階段を降りて一階へ。
最後に家をバックに一人ずつ。片っ端から写真を撮って帰った。
んで今日。出来上がった写真を見て俺達は驚いた。
何も写ってないのだ。
もちろん俺達は普通に写ってる。霊的な物が何も写ってなかったのだ。
「・・おかしくね?」
「もう成仏しちゃったとか、じゃねぇかな?」
「やっぱそうなのかな。じゃあ、あそこ行っても、もう心霊写真撮れないってことか。
無駄だったなぁ」
「そうでもないよ。行く途中に周りから結構孤立してる民家が一軒あるからさ。
次はそこ行こうぜ」
「おぉ!マジで?そこも廃墟?」
「んな訳ねぇじゃん。普通に人住んでたよ。今日の夜行こうぜ」
「おっけ、分かった。今のうちに適当に準備しとくわ」
楽しみだ。かなり久しぶりだから何かワクワクする。
「神様がいるなんて、あなたも信じていないわよね?」
彼女の問いかけに、僕は肯(うなず)いた。
世の中に宗教はたくさんあって、その数だけ神様がいることになっている。
けれど、神様や天国または地獄なんて概念は、生きている人間を慰(なぐさ)めたり
戒(いまし)めたりするために誰かが作ったものに過ぎない。
「だったらお坊さんが唱えるお経だって、意味なんか無いわよね?」
僕は再び肯(うなず)いた。
神様がいないなら、人間の創作物である経文に超神秘的な力が宿るはずも無い。
あれは故人の霊をあの世へと送り届けるためではなく、あくまで遺族の悲しみを
鎮(しず)めるために読まれる物だ。
「じゃあ、この世を彷徨(さまよ)う魂は、どうしたら成仏できるのかしら?」
なるほど、宗教家が行う浄霊(じょうれい)儀式なんかに意味が無いとすれば、
現世に留まる霊はどうしたら成仏させられるのだろう。
僕は彼女に言った。
「生前に熱心な信仰があれば、経文を読んでもらうことで、
或(ある)いは成仏できるのかもしれないね」
信心深かった故人なら、お坊さんの読むお経にありがたみを感じて、
安らかに眠る事が出来るのかもしれない、と僕は思った。
「そう……そうかもね……」
それきり彼女は俯(うつむ)いて、黙り込んでしまった。
僕はひしゃげたままのガードレールに花束を手向(たむ)けて、その場をあとにした。
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